top of page

たすきの話

 もう何年前かわからなくなりました。20年にもなるでしょうか。ショウマという子が大正剣道同好会に入部しました。体調が良くなかったために道具をつけて打ち合うことはできませんでしたが、調子のいいときは素振りと打ち込み、そうでないときは見取り稽古を続けました。みんなとも仲良くなり、暑い日も寒い日も道場へ来ていました。道場へ来るだけでもたいへんだったと思いますが、お母さん、父さんの応援もあり小学校を卒業するまでがんばり通しました。残念なことに小学校卒業とともに剣道もやめなければなりませんでしたが、その後もショウマは私たちのことを忘れず、ずっと応援してくれていたのです。  そして数年後の春。彼は就職し、初めてもらった給料で右の写真のようなたすきを私たちにプレゼントしてくれました。紅白の地に金色で鮮やかに「大正剣道同好会」と刺繍がしてあります。大正の選手は、対外試合ではこのたすきをつけ、ショウマの応援を背中に感じながら試合をしています。

少年剣道教育奨励賞

 平成21年11月、大正剣道同好会の活動に対し、全日本剣道連盟から「少年剣道教育奨励賞」をいただきました。創立以来、いろいろな困難もありましたが、剣道に魅力を感じる人たちの努力と協力で今日までつづけてこられました。創設に努力された故川辺さん。守り育てた吉橋さん、金子さん、渋谷さん。私たちの活動を脇から支援してくれた家族。そして共にけい古に励んできた剣友や子供たち。みんなに感謝をしつつ、この受賞をよろこんでいます。

 

 賞品として手ぬぐいをいただきました。「ぶとくは,せんざいにかおる」 ”剣道を通じてまなんだまっすぐな心、正しい態度はいつまでも消えない” という意味に解釈しました。この意味をしっかりとつぎの世代に引き継いでいきたいと思っています。

礼に終わる

 しばらく休んでいたA君。「しばらくだな」と声をかけるとちょっととまどった表情をみせました。その理由はまもなくわかりました。稽古が終わった後やってきて「退会します。」

 

 大柄な体で鋭い技を繰り出す彼の剣道の将来を楽しみにしていただけにとても残念でした。最近の子供は全体に忙しい日を送っています。部活、塾などスケジュールが一杯という例も珍しくありません。これも時代の流れなのでしょうか。

 

 時代の流れと言えば、最近は「挨拶もろくできない」と言う言葉を良く聞きますが、それにくらべA君の態度は立派でした。指導者の前にきちんと正座をして理由を述べ、「お世話になりました。」と礼をして帰っていきました。お母さんに促されての事ではありましたが、このような態度を身に付け、それを実践できたと言うことは指導者の一人として大変うれしく思いました。これこそ剣道で大切にしている「礼に始まり礼に終わる」ことなのです。礼に限らず、剣道で学んだ精神が日常に生かされてこそ、修行の効果と言えるのでしょう。 A君は中学校では剣道を続け、春の昇段審査ではみごと初段に合格しました。

思いやり

 昇段審査のときのことです。「さすが」と感心しました。午前の初段審査が終わり、午後の部(2段、3段の部)の開会式の時のことです。審査委員長から次のようなお話がありました。

 「午前の部の発表のとき、喜びのあまり、手をたたき歓声をあげる人がいた。発表の場には喜びの人もいる反面、残念だった人もいる。それを考えるとそのような行為は慎むべきです。」

 この一言で午後の発表では一人も歓声歓声をあげる人はいませんでした。相手に対する思いやりを取り戻したのです。「剣道の礼」は相手に対する感謝、思いやりを形に表したものであると日頃から教わっている剣士の姿でした。さすがです。中には観客席を振り返り、小さなVサインを送る笑顔もありましたが、それはそれで好もしい光景に見えました。喜びを抑えて他人を思いやる。素晴らしいと思います。

 

bottom of page